研究紹介
ヘム獲得タンパク質HasAを用いた人工金属タンパク質
第7話「フェナントロリン連結ポルフィリンと蛍光菌HasAの複合化と金属配位によるベベルギア型二量体構築」
これまで当研究室では主に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来のヘム獲得タンパク質HasAに対し、サロフェン、フタロシアニン、ポルフィセン、テトラフェニルポルフィリン(TPP)など、様々な合成金属錯体の複合化に成功してきた。その中でもTPPは合成が容易なポルフィリン誘導体であり、拡張性の高い金属錯体であるが、緑膿菌HasA(HasAp)とはアルカリ条件でのみ安定に存在出来、中性付近のpHでは不安定という欠点があった。
そこでHasApの相同性検索から、蛍光菌(Pseudomonas protegens PF-5)のHasA(HasApf5)を見出した。意外な事にHasApと配列相同性が高いにも関わらず、HasApf5は鉄TPP錯体を中性pH付近でも安定に複合体を維持出来ることが分かった。結晶構造解析からはHasApには見られない水素結合の存在し、安定性への寄与が示唆された。
このHasApf5の優れた錯体保持能を活かし、TPPの1つのフェニル基の先に二座配位子として有名なフェナントロリンを連結したFe-TPP-phenを合成し、HasApf5へと複合化させた。ここにNi2+イオンを添加すると、Fe-TPP-phen-HasApf5のphen部分でNiイオンを配位し、HasApf5の二量体が形成されることを明らかにした。この二量体の構造情報を得るためにX線小角散乱法(SAXS)で分析したところ、二量体中の2つのHasApf5はNi-phen錯体を頂点としたV字型をしており、この配置を維持しながら、HasApf5が回転可能であることを示唆する解析データが得られ、人工的なタンパク質二量体としては珍しいベベルギア型二量体を形成していると推測される。
詳しくはこちらの論文をご参照下さい。
- H. Inaba, Y. Shisaka, S. Ariyasu, E. Sakakibara, G. Ueda, Y. Aiba, N. Shimizu, H. Sugimoto, O. Shoji, "Heme-Substituted Protein Assembly Bridged by Synthetic Porphyrin: Achieving Controlled Configuration while Maintaining Rotational Freedom" , RSC Adv.,14, 8829–8836 (2024).
https://doi.org/10.1039/D4RA01042F