研究紹介
ヘム獲得タンパク質HasAを用いた人工金属タンパク質
第3話「緑膿菌HasAと9,10,19,20-テトラフェニルポルフィセン錯体の複合化」
緑膿菌のヘム獲得タンパク質HasAが各種鉄DPP錯体を捕捉可能であり、その結晶構造解析からは2つのかさ高いメソ位フェニル基は、HasAとの接触を避けるように配置されていた。この結晶構造から、我々はDPPのメソ位フェニル基の位置であれば、さらにかさ高い構造を有する骨格でもHasAに捕捉出来ると推測した。
そこで、九州大学久枝研究室との共同研究として、9,10,19,20-テトラフェニルポルフィセン(Ph4Pc)の鉄、コバルト錯体とHasAの複合化を試みた。Ph4Pcは久枝研究室にてグラムスケールでの合成法が確立されているポルフィリン類縁骨格であり、長波長側での強い可視光吸収など、ポルフィリンとは大きく異なる物性から、光化学、触媒化学の分野で注目を集めている錯体である。
我々は久枝研究室より提供して頂いたFe-Ph4Pc、Co-Ph4Pcを従来法に基づき、緑膿菌HasAとの複合化を行ったところ、期待通り、HasAはPh4Pc錯体を安定に捕捉することが可能であった。さらにCo-Ph4Pc-HasA複合体の結晶構造解析にも成功し、Ph4Pcの4つのフェニル基はHasAとの接触を避けるような配向で溶媒に露出していた。ヘムを捕捉したholo-HasAの構造と比較すると、ヘム捕捉部分周辺のループのズレが見られたが、この柔軟なループのおかげで、HasAがPh4Pcのようなヘムとは大きく異なるかさ高い合成金属錯体をも複合化できるようになっていると推測される。また、Fe or Co-Ph4Pc-HasAも緑膿菌の増殖阻害能を示し、中心金属が異なるだけだが、Co-Ph4PcよりもFe-Ph4Pcの方が増殖阻害能が高く、錯体構造、複合体構造以外に金属種も増殖阻害能に影響を与えることが判明した。
詳しくはこちらの論文をご参照下さい。
- E. Sakakibara, Y. Shisaka, H. Onoda, D. Koga, N. Xu, T. Ono, Y. Hisaeda, H. Sugimoto, Y. Shiro, Y. Watanabe, O. Shoji, "Highly malleable haem-binding site of the haemoprotein HasA permits stable accommodation of bulky tetraphenylporphycenes", RSC Adv., 9, 18697–18702 (2019).
https://doi.org/10.1039/C9RA02872B