研究紹介
ヘム獲得タンパク質HasAを用いた人工金属タンパク質
第6話「テトラフェニルポルフィリン錯体の複合化とタンパク質結晶を用いた触媒反応」
これまでの研究でジフェニルポルフィリン(DPP)、トリフェニルポルフィリン(TriPP)とHasAの複合化に成功していたが、フェニル基を4つ持つテトラフェニルポルフィリン(TPP)の金属錯体は安定にHasAに複合化させることに成功していなかった。TPPは1935年にRothemundによって初めて化学合成されたポルフィリン骨格であり、最も汎用的なポルフィリン骨格として、多くの膨大な数の誘導体が合成されてきたが、タンパク質に安定に複合化された例はこれまで報告されていなかった。
そのような中で、我々はTPP鉄錯体とHasAの複合化条件を詳細に検討し、アルカリ性条件でFeTPP-HasAが安定に複合化出来ることを見出した。これを契機に鉄以外にもクロム、マンガン、コバルト、ガリウムのTPP錯体とHasAの複合化であったり、TPPの4つのフェニル基の代わりにピリジル基を有するTPyP錯体、HasAへの変異導入と組み合わせることで、ペンタフルオロフェニル基を有するTPFFP錯体との複合化にも成功した。
作成したTPP錯体-HasA複合体は緑膿菌に対して増殖阻害効果を示し、特にコバルトを中心金属に持つCoTPP-HasAが強力な阻害効果を示すことを明らかにした。また、ガリウムを中心に持つGaTPP-HasAを緑膿菌に作用させ、420nmの光照射による光殺菌にも成功した。
さらにHasAの二重変異体(V37G/K59Q)とFeTPPの複合体の結晶構造解析を行ったところ、TPPのフェニル基の立体障害によって、HasAのループ構造が変化し、金属錯体を固定するHasAの2つの配位アミノ酸のうち、His残基の配位が外れ、FeTPPの金属周辺は5配位構造となっていた。また、FeTPPに生じたスペースに別のHasA分子からのループがはまり込むことで高分子状のパッキング構造を示した。我々はこの特徴的な結晶構造を人工的な反応空間として利用して、スチレンのシクロプロパン化を行ったところ、立体選択性を示し、人工HasAの触媒応用への応用可能性が示された。
詳しくはこちらの論文をご参照下さい。
- Y. Shisaka, E. Sakakibara, K. Suzuki, J. K. Stanfield, H. Onoda, G. Ueda, M. Hatano, H. Sugimoto, O. Shoji "Tetraphenylporphyrin Enters the Ring: First Example of a Complex Between Highly Bulky Porphyrins and a Protein" , ChemBioChem, 23, e202200095 (2023)
https://doi.org/10.1002/cbic.202200095