研究紹介
シトクロムP450を利用するバイオ触媒の開発
第2章: デコイ分子を用いたP450BM3等の機能改変
第6話「大腸菌を反応容器として用いたベンゼンからフェノールの直接変換」
我々が開発したデコイシステムは、P450BM3の基質特異性の変換、立体選択性の制御が可能であり、プロパンやベンゼンなどの反応性の低い非天然基質を常温、水中で直接対応する水酸化物に変換できる環境調和型の化学変換法として期待されるが、1つ大きな問題が残っていた。P450は酸素分子を用い、基質に1つの酸素原子を添加するモノオキシゲナーゼであるが、酸素分子を還元的に活性化させるのに、電子源としてNAD(P)Hを必要とする。つまり、基質の水酸化と同じ分だけNAD(P)Hを消費する。P450BM3の場合はNADPHを用いるが、市販のNADPHは非常に高価(1gで約2万円)で生成物の価値と釣り合わず、このままでは実用化が不可能であった。一方で生物は体内にブドウ糖(グルコース)を用いて、NAD(P)Hを再生させる酵素群を有しており、生体内でP450BM3とデコイ分子によって非天然基質の水酸化を行えば、安価なグルコースを消費し、高価なNADPHを再生させながら反応を進行させることが可能だと予想した。
そこでP450BM3を体内で大量発現させた大腸菌を反応容器とし、非天然基質であるベンゼンとデコイ分子を添加したところ、大腸菌内でもベンゼンからフェノールへの直接水酸化が進行することを確認した。この反応では第3世代デコイを中心にフェノールへの変換効率が高く、大腸菌へのデコイ分子の取り込み効率の違いが、水酸化効率の違いに表われていることが推測された。反応条件を最適化した結果、C7-Pro-Pheをデコイ分子として用い、25℃、5時間でおよそ40%の転換率でベンゼンをフェノールに変換することに成功した。この菌体内反応系は、高価なNADPHの消費を避けるだけでなく、反応終了後の大腸菌を回収し、再びベンゼンとデコイ分子を加えることで、繰り返し触媒反応を行うことも可能であり、実用化に向けて大きく前進した。
詳しくはこちらの論文をご参照下さい。
- M. Karasawa, J. K. Stanfield, S. Yanagisawa, O. Shoji, Y. Watanabe "Whole-Cell Biotransformation of Benzene to Phenol Catalysed by Intracellular Cytochrome P450BM3 Activated by External Additives" , Angew. Chem. Int. Ed., 57, 12264-12269(2018). , Angew. Chem., 130, 12444-12449(2018). https://doi.org/10.1002/ange.201804924(Germany ver.) https://doi.org/10.1002/anie.201804924(English ver.)