研究紹介
ペプチド核酸(PNA)による遺伝子制御
第1話「ルテニウム錯体連結によるPNAのinvasion効率向上」
PNAは二本鎖状態のDNAに対して、配列選択的に結合するdouble duplex invasionという魅力的な特徴があるが、生体内での応用にはいくつかの課題がある。その1つに、「生体内環境でのインベージョン効率が低い」という点である。生体内環境では非常に塩濃度が高く、電荷の反発が抑えられる。通常、DNA/DNA二本鎖はDNAのリン酸骨格による負電荷による静電反発が不安定性に繋がっているが、高塩濃度環境では、静電反発が緩和されDNA/DNA二本鎖がより強固になる。そのため、DNA/PNA相互作用に基づく、PNAによるインベージョンの効率が低くなってしまう問題がある。
この問題を解決するために、我々はDNAと疎水性相互作用、静電的相互作用をすることが知られているルテニウム錯体(Ru(phen)3)に着目し、DNA/PNA相互作用の強化を目指し、ルテニウム錯体含有PNAの設計を行った。興味深いことに、ルテニウム錯体のPNAへの導入位置、リンカーの長さによって、インベージョン効率が変化し、最適な分子設計では、期待通りに高塩濃度の生体内環境においても標的DNA二重らせんの目的配列に侵入し、安定なインベージョン複合体を形成した。一般的に標的DNAとの結合力を増強すると、目的配列以外への望まぬ結合が起こる確率が高まってしまうことが多いが、我々が設計したルテニウム錯体連結PNAは1塩基のミスマッチも認識して、全くインベージョン複合体を形成しなかった。
詳しくはこちらの論文をご参照下さい。
- M. Hibino, Y. Aiba, Y. Watanabe, O. Shoji "Peptide Nucleic Acid Conjugated with Ru‐complex Stabilizing Double‐Duplex Invasion Complex Even under Physiological Conditions" , ChemBioChem, 19, 1601-1604(2018).
https://doi.org/10.1002/cbic.201800256