研究紹介
シトクロムP450を利用するバイオ触媒の開発
第2章: デコイ分子を用いたP450BM3等の機能改変
第14話「P450BM3近縁酵素CYP102A5, A7へのデコイ分子適用」
我々は過酸化水素駆動型P450に対して基質となる長鎖脂肪酸よりも短い、中鎖脂肪酸がデコイ分子(擬似基質)として機能することを見出してから(第1章: デコイ分子を用いた過酸化水素駆動型P450の機能改変)、より活性の高いP450として、還元酵素と一体化している自己完結型のP450である巨大菌(Priestia megaterium (以前の名称Bacillus megaterium))由来の長鎖脂肪酸P450BM3(分類名CYP102A1)に対し、デコイ分子を適用し、ベンゼンやプロパン、エタンの直接水酸化に成功してきた。しかし、P450BM3が所属しているCYP102サブファミリーには、Bacillus cereus由来のCYP102A5やBacillus licheniformis由来のCYP102A7など、多くのP450が報告されていたが、CYP102A1であるP450BM3以外の触媒応用例は少なく、デコイ分子の適用も行われてこなかった。
そこで我々は、デコイ分子を用いた基質誤認識システムの適用範囲を広げるため、P450BM3と同じCYP102サブファミリーに属するCYP102A5とCYP102A7に焦点を当てて、その発現精製、デコイ分子応答能、結合様式を調査した。その結果、同じCYP102サブファミリーに属しているもののCYP102A5とCYP102A7はP450BM3 (CYP102A1)とは全く異なるデコイ分子応答能を示し、CYP102A5はほぼ第2世代デコイ分子(アミノ酸修飾PFC)(第2話「アミノ酸連結によるデコイ分子の改良とP450BM3との共結晶構造」)以外に応答せず、その中でも側鎖が最も大きいトリプトファン(Trp)を特に好むことが明らかとなった。意外にもP450BM3の酵素機能を強く誘導可能な非フッ素含有デコイである第3世代デコイ分子(第3話「デコイ分子のフッ素原子からの脱却による構造多様性の拡大」)にはほとんど応答しなかった。一方のCYP102A7もP450BM3やCYP102A5とは全く異なり、同じ第2世代デコイ分子の中でも側鎖が小さいアラニン(Ala)を持つデコイ分子に強く応答した。しかし、CYP102A5、CYP102A7共に、P450BM3の活性を超えることは無かった。これは今回試験を行ったデコイ分子は元々P450BM3用に開発されたものであり、予想以上にデコイ分子応答能が異なることから、今後、CYP102A5、CYP102A7用にデコイ分子を開発していくことで、更なる活性向上が期待出来る。また、この研究の過程でCYP102A5の結晶構造の取得にも成功しており、構造を基にした分子設計へと発展が期待出来る。
詳細はこちらの論文をご参照下さい。
- J. K. Stanfield, H. Onoda, S. Ariyasu, C. Kasai, E. M. Burfoot, H. Sugimoto, O. Shoji "Investigating the applicability of the CYP102A1-decoy-molecule system to other members of the CYP102A subfamily" , J. Inorg. Biochem., 245, (2023) 112235
https://doi.org/10.1016/j.jinorgbio.2023.112235